
「うちの母には内緒で」と改札で念を押す彼→結婚の話も出ているのに、私は母親に会わせられない相手なの?
地元のパン屋の前で、彼は私の腕を引いて通り過ぎました。結婚の話まで出ているのに、帰りの電車で浮かんだのは、同窓会で耳にした彼の昔の恋人の話でした。
改札の前で言われたお願い
彼とは高校の3年間、同じクラスでした。去年の同窓会で隣の席になったのをきっかけに連絡を取り合い、交際を始めて3か月。先月には彼のほうから「結婚のことも、ちゃんと考えてるから」と言ってくれていました。
その彼が、改札の前で念を押すように口にしたのがこれです。
「うちの母には内緒で」
「わかった」
とっさにうなずいたものの、ホームへ向かう階段で、彼の言葉を何度もなぞりました。結婚を考えている相手を、どうして母親にだけは知られたくないのか。理由が思い当たりませんでした。
パン屋の前で引かれた腕
それから、彼の様子がやけに目につくようになりました。カフェで彼のスマホに「母」と表示されると、彼は画面を伏せて店の外へ出ていきました。
ある休日、2人で地元に寄ったときのことです。高校の近くのパン屋がまだあるのを見つけ、懐かしくなって入ろうとしました。登校前にくるみパンを1つ買うのが、3年間の習慣だった店です。
「そこはやめとこう」
彼は私の腕を軽く引き、そのまま店の前を通り過ぎました。
帰りの電車で気づいたのは、彼の家族の顔を1人も知らないことでした。思い出したのは、同窓会で耳にした話です。彼には大学時代、長く付き合っていた人がいたらしい。その人とひどい別れ方をして、彼の母親はそれを知っているのではないか。だから私を母親から遠ざけているのではないか。窓に映る自分の顔が、険しくなっていきました。