
私の名前を呼ぶ直前、彼のボイスメッセージには3秒の無音があった
再生ボタンを押すと、最初の3秒だけ、何も聞こえませんでした。文字の返事ばかりだった彼から、初めて届いたボイスメッセージです。一拍おいて私の名前を呼ぶ声の後ろを、車が通り過ぎていきます。名前の前のあの無音が、私には引っかかっていたのです。
何度聞いても、一秒は埋まらなかった
机にスマホを置いて、スピーカーから流し直しました。
「今度の休み、空けておいてほしい」
用件はそれだけで、録音は十秒に満たないものでした。それなのに、耳に残るのは言葉より手前の部分です。言いかけた何かを、引っ込めたような間でした。ここしばらくの彼は返事が短く、前回の約束もひとことで延期されたままです。その流れの先にあの3秒があったようで、気づけば同じ録音を十回以上聞いていました。
増えていく想像と、短くした返事
想像は勝手に膨らみました。転勤が決まったのかもしれません。改まって伝えたい、よくない話があるのかもしれません。
聞きたいことを文字にしては、送らずに消しました。3秒の間を問いただす自分が、ひどく小さく見えたからです。結局、返したのはひとことだけです。
「わかった。空けておく」
いつもなら絵文字のひとつも足すところを、句点で終わらせました。それが私なりの、ささやかな仕返しでした。