
彼女の企画を、俺だけが別の資料に移した。誰にも言えなかった理由
短く答えたとき、彼女の表情が変わったのは、すぐにわかりました。それでも切り出せないまま、俺は役員の前であのファイルを開く日を迎えることになります。
名前が消えていく資料
先輩のもとでは、人の企画はいつのまにか出どころがぼやけていきます。誰が考えたかより、チームの成果として通すことが優先されるからです。今回いちばん筋がよかったのは、彼女の一案でした。それが先輩の資料に溶けてしまえば、誰の発案かは残りません。彼女の名前を残せるのは、たぶん俺しかいませんでした。
「これは、別で進めるから」
自分のデスクに戻ると、彼女が来て「私の案だけ、別にしたんだね」と言いました。俺は手元の画面に目を向けたまま、「これは、別で進めるから」とだけ返しました。彼女の表情が動いたのは、横目でもわかりました。けれど、君のためだと口にすれば、特別扱いを職場で認めることになります。説明を飲み込んだのは半分は彼女のため、半分は自分の都合だったと、今は思います。