
彼女のカップを来客用の棚に動かした理由を、俺は言えなかった
彼女のマグカップの取っ手に、小さな欠けを見つけたとき、俺は来客用の棚へ移しました。割れてほしくなかっただけなのに、理由を伝えなかったせいで、彼女には自分だけ遠ざけられたように見えていました。
取っ手の欠けに気づいた
彼女と同棲を始めてから、朝はそれぞれのマグカップでコーヒーを飲むようになりました。俺の青いカップと、彼女の白いカップ。2つ並んでいるのを見るのが、いつの間にか当たり前になっていました。
ある日、食器を片付けていると、彼女のカップの取っ手に小さな欠けがあることに気づきました。すぐに使えなくなるほどではありません。でも、いつもの棚は出し入れが多く、他の食器にぶつかることもあります。
彼女はそのカップを気に入っていました。付き合ってすぐの頃、雑貨店で選んだものです。割れてから伝えるより、先に安全な場所へ移したほうがいいと思いました。
守るつもりで、来客用の棚へ移した
来客用の棚は、普段あまり使わない場所です。高い位置にあるので出し入れは少なく、他の食器とぶつかりにくい。俺はそこならしばらく置いておけると思い、彼女のカップを移しました。
そのとき、彼女に理由を説明しませんでした。見れば分かるだろうし、わざわざ言うのも照れくさい。俺はいつも、大事なことほど短く済ませようとしてしまいます。その癖が、彼女には冷たさに見えていたのだと思います。
「私のカップ、なんで上の棚にしたの?」と聞かれたときも、俺は「そのほうがいいと思って」とだけ答えました。欠けていることを言えば、彼女が気にするかもしれない。そう考えたつもりでしたが、本当は説明を面倒がっていただけだったのかもしれません。