
皿のしいたけをよけながら別れを告げた俺が、最後まで言えなかった理由
彼女との関係を終わらせると決めたのは、俺のほうでした。けれど、本当の理由は最後まで言えませんでした。皿の中のしいたけをよける手だけが、別れ話の途中でも勝手に動いていました。
転勤を言い出せなかった
地方支社への異動が決まったのは、半年前のことです。任期は4年。彼女に一緒に来てほしいとは言えませんでした。
彼女には彼女の仕事があります。家族もこちらにいます。俺の都合で生活を変えてほしいと言うのは違うと思いました。そう考える一方で、どこかでは引き止めてほしい気持ちもありました。
だから俺は、転勤の話をしないまま別れを切り出すことにしました。選んだのは、最初のデートで入った中華の店です。最後にするなら、2人の始まりだった場所がいいと考えていました。
言えたのは「お互いのため」
角の席で、いつもの八宝菜を頼みました。彼女は普段と同じようにビールを頼み、俺の様子を見ながら話していました。
料理が届いてから、俺は「もう終わりにしよう」と言いました。彼女はすぐに理由を聞きました。転勤のことを話すなら、そこしかありませんでした。
でも、俺の口から出たのは「お互いのためだと思う」だけでした。待ってほしいと言う勇気も、一緒に来てほしいと頼む覚悟もありませんでした。そのくせ、皿の中のしいたけだけは、いつも通り彼女の分までよけていました。