
「見つかったよ、本当に助かりました」彼のボイスメッセージに、私の宛名はありませんでした
彼が頻繁にやり取りしていた相手が誰なのか、私はずっと聞けずにいました。その日、彼が紙袋から取り出したのは、半年前に欠けたあのマグカップだったのです。
誰に向けた言葉か、わからない
何度聞いても、彼が誰に向けて話しているのかわかりませんでした。残っているのは店の物音と、「見つかったよ、本当に助かりました」と弾んだ声を上げる彼の言葉だけ。
気になったのは、ここ数週間の彼が、出かけ先を聞いても「ちょっと用事」とだけ返すことが増えていた点です。ボイスメッセージの向こうにあるものが、その用事の正体に思えて、再生を止められないまま聞き返してしまったのです。
その声は、私に向いていなかった
もうひとつ気がかりがありました。テーブルに置いた彼のスマホが短く震えるたび、彼は画面を下に向けていたのです。相手がだれか聞いても『仕事の知り合い』と返るだけで、誤魔化されるだけでした。
私と話すときよりずっと親しげなあのボイスメッセージと、こちらに見せたくないという彼の動きが結びついて、自分だけが蚊帳の外に置かれた気がしました。「さっき、何か送った?」と送ってみると、返ってきたのは「ごめん、間違えた」の一言。聞きたいことはたくさんあるのに、確かめるのが怖くて、私はそこで質問を引っ込めました。