
「新しく、好きな人ができたんだ」と元彼が言った席に、私の好きな飲み物があった
氷の入っていないグラスのことばかり、家に帰ってからも考えていました。応援してる、と笑った自分の声が、やけに遠くに聞こえます。どうしてあの一杯だったのでしょう。
私の頼み方を、まだ覚えていた人
席につくと、テーブルにはもう飲み物が並んでいました。私の前にあったのは、氷の入っていないジンジャーエールです。「ジンジャーエール、氷なしでよかったよね」と、彼は念を押すように声をかけました。付き合っていたころ、炭酸が薄まるのが嫌でいつもそう頼んでいたのを、覚えていたのです。グラスの底から細かい泡が立ちのぼるのを見て、少しだけ、ここに来てよかったと思いました。
相談の中身は、新しい好きな人でした
近況をひとしきり話したあと、彼はあらたまった声になりました。「新しく、好きな人ができたんだ」。グラスに伸ばしかけた指を、私はそのまま膝の上に戻しました。続けて、「相談に乗ってほしくて」と彼は言いました。さっきまで温かく感じたグラスが、急に他人のもののように見えます。私の好みを覚えていたのは、ただの癖でしょうか。それとも、この話を切り出すための準備だったのでしょうか。