
「面接、どうだった?」と妻から届いた問いに、俺が言葉より先に送った求人票の勤務地
開けば既読がつくとわかっていて、俺は駅のベンチで何本も電車を見送りました。届いた問いは、面接の中身ではなく、隠していたことのほうを聞いていました。
通知を切り忘れたまま、俺は家を出ました
求人票を見つけたのは2か月前でした。妻の実家がある町の会社で、営業の枠が1つ空いていました。店を畳んでから2人で暮らす義父母のことを、妻はときどき口にしていました。もっと帰れたらいいのに、という言葉を聞くたび、俺は返す文句を持っていませんでした。応募したことは誰にも言わず、面接の日は休みを取り、いつもの背広で家を出ました。カレンダーの通知を切るのを忘れていたことに気づいたのは、電車に乗ってからです。妻が見たかどうかはわかりませんでした。玄関での「いってきます」に返ってきた声は、いつもと同じに聞こえました。
駅のベンチで、既読をつけられませんでした
「今日、帰りは何時くらい?」には、面接の前に「少し遅くなるかも」と返しました。そこまでは嘘をつく必要がありませんでした。面接のあと、通知に浮かんでいたのは「お疲れさま。今どこ?」でした。開けば既読がつき、そこから先は本当のことを書くしかなくなるはずでした。俺は駅のベンチに座ったまま、何本も電車を見送りました。今頃、妻は職場でスマホを伏せているのだろうか。それとも、もう気づいていて、返事を待っているのだろうか。開いたのは、帰りの電車の中でした。既読がついてすぐ、「面接、どうだった?」が届きました。妻は知っていました。