
「これ、掛けなおしておくね」そう言って別れた俺が、コートのポケットにこっそり忍ばせた最後の言葉
本当の理由は、最後まで口にできませんでした。掛け直したコートのポケットに、伝えられなかった言葉をひとつだけ残したのです。

本当の理由は、最後まで口にできませんでした。掛け直したコートのポケットに、伝えられなかった言葉をひとつだけ残したのです。
彼女が来春から別の街で働くと聞いたとき、嬉しさより先に、自分の情けなさが顔を出しました。離れた場所で彼女を繋ぎ止める自信が、俺にはなかったのです。それでも、俺に気をつかって話を進められずにいる彼女を見て、それだけは避けたいと思いました。だから「もう、別れよう」と先に口にしたのは、俺のほうでした。
理由を聞かれても、俺は本当のことを言えませんでした。代わりに「向こうで、頑張ってきてほしい」とだけ伝えました。応援している、その気持ちに嘘はありません。ただ、引き止めたい本音まで一緒に飲み込んだことは、今も彼女に申し訳なく思っています。