
別れを告げた彼が最後に手を伸ばしたのは、傷ついた私ではなく落ちかけたコートだった
どうして、と繰り返しても、彼は本当の理由を言いませんでした。冷たく突き放されたと思っていた別れに、私の知らない続きがあったのです。
彼の部屋で、別れを切り出された
彼から「今夜、少し話せるかな」とメッセージが届いたのは、その少し前のことでした。いつもなら絵文字のひとつでも添える人が、その一文だけを送ってきました。何かを察しながら部屋へ向かった私に、彼は両手を膝に置いたまま「もう、別れよう」と言いました。聞き間違いだと思いたくて、私は返事をしませんでした。けれど彼の目は、私から逸れなかったのです。
理由を聞いても、はぐらかされた
どうして、と私は繰り返しました。けれど彼は理由を言わず「向こうで、頑張ってきてほしい」とだけ口にしました。来春から別の街で働く話は、私自身まだ迷っていた最中でした。それをこんな場面で持ち出されるなんて、考えてもいませんでした。送り出す口実に別れを使われたようで、問い返す声が頼りなく揺れました。