
同級生に「もったいない」と言い放った私の手は、3年前からピアノに触れていなかった
同窓会で再会した同級生に、つい口をついて出た一言。あの言葉は彼女ではなく、自分自身に向けたものだったのかもしれません。
鍵盤から離れた日
音大を卒業して、私は演奏の道に進みませんでした。在学中から薄々気づいていたのです。技術はあっても、舞台に立つたびに手が震える自分に、演奏家は務まらないと。卒業後は一般企業に就職し、ピアノは趣味で続けるつもりでした。でも忙しさを言い訳にしているうちに、気づけば3年以上鍵盤に触れていませんでした。部屋の隅に置いたピアノには、畳んだ洗濯物が積まれていました。
口をついた本音
卒業から8年後の同窓会で、同じゼミだった彼女がピアノ教室を開いていると聞いたとき、胸がざわつきました。在学中、彼女の演奏は私より高く評価される場面が何度もありました。あの腕で、ピアノ教室。「音大出たのにピアノ教室?もったいないね」。言った瞬間、自分の言葉に驚きました。「子どもたちに教えるの、楽しいよ」と穏やかに返す彼女に、「でもさ、あれだけ弾けたのに」と重ねてしまったのは、彼女を評価していたからではなく、自分を正当化したかったからだと思います。あれだけ弾ける人でも教室なのだから、ピアノをやめた自分の判断は間違っていなかった。そう思いたかったのです。