
俺が「転職繰り返すやつ」と言ったあの日、給湯室には彼女がいたらしい
転職4回の新人が配属されてきたとき、期待はしていませんでした。どうせ続かない。そう決めつけていた俺が彼女の本当の経歴を知ったのは、3ヶ月も経ってからのことです。
前任者の影
以前の部署にも、転職を繰り返してきた社員がいました。「経験が豊富で頼もしい」と思っていたのに、大事なプロジェクトの途中で「次が決まったので」と辞めていった。あの穴埋めに走り回った期間が、まだ記憶に焼きついていました。
だから給湯室での雑談の中で彼女の経歴を知ったとき、同僚に「転職繰り返すやつに仕事は任せられない」と口にしました。重要な案件は振らず、当たり障りのない業務だけを任せる。それが俺なりのリスク管理でした。
想定外の一手
それが揺らいだのは、異業種との共同企画が暗礁に乗り上げたときでした。社内の誰もが手を挙げない中、彼女が「以前の職場で近い業界を担当していたので、対応できるかもしれません」と申し出てきたのです。
半信半疑で任せてみると、先方との会話が驚くほどかみ合いました。製造業の現場用語にも広告業界の慣習にも詳しい。ひとつの会社に長くいても身につかない幅広さを、彼女は持っていたのです。「助かった」と伝えたとき、彼女は小さく頷いただけでした。