
俺の寝言が彼女に届いていた。「最後、なんて言ってたの?」と聞かれて、送れずに消した一文
自分の声を聞き直すと、名前のあとに何を言いかけていたのかはすぐに思い当たりました。けれど彼女に聞かれても、その言葉だけは送れないまま消しました。
押した覚えのない送信
眠る前は、次の休みの予定を彼女とやりとりしていました。候補のお店が届いたころには布団に横になっていて、「ごめん、ちょっと目つぶる」と送ったところまでは覚えていました。その下に彼女からの返事も届いていましたが、読んだ記憶はありませんでした。
音声の吹き出しの横には、既読の表示がついていました。握ったまま眠ったせいで、親指がマイクのボタンに乗っていたのでしょう。
イヤホンをつけて、自分の送ったものを再生しました。布団の音と呼吸の音のあとに、間の抜けた声で彼女の名前。そのあとに続くもごもごした音を聞いて、自分が何を言いかけていたのかすぐに思い当たりました。
布団の中で繰り返していた言葉
「一緒に住もう」。それ以外に考えられませんでした。
先月、アパートの更新の案内が届きました。更新するより、2人で住める部屋を探したい。次の休みに会ったら切り出そうと決めて、眠る前も布団の中で、言い方を頭の中で繰り返していました。それがそのまま、口から出ていたようです。
聞き直しても、はっきりしているのは名前と、最後の「もう」くらいでした。彼女に伝わったとは限りません。それでも、顔を見て言うつもりだった言葉が、寝ぼけた声のまま先に届いてしまいました。
ここ最近、彼女は仕事が立て込んでいて、約束が2回続けて延期になっていました。そんな時期に寝言でこんな話を聞かせたら、急かしているように受け取られるかもしれない。
送信取消のメニューまで開いて、そこで閉じました。既読がついたものを消せば、かえって何かあったと思わせてしまいます。「昨日のは」と打っては消し、結局送ったのは、軽く流すための一文でした。
「ごめん、寝ぼけて変なの送ってたよね。忘れて」