
「少しだけ、時間をもらえないかな」と告白を保留した俺→彼女の帰り道で、ひとり決めていたこと
机に置かれた異動の打診を、俺は何度も裏返していました。遠い支社への話で、答える期限は迫っています。普段なら迷わない俺が決めかねていたのは、毎日並んで帰る相手がいたからでした。その相手から、思いがけず気持ちを打ち明けられたのです。
即答できなかった理由
「ずっと前から、あなたのことが好きでした」
いつもの角で、彼女はまっすぐにそう言いました。うれしくないはずがありません。けれど、頭の片隅にはずっと、あの打診が引っかかっていました。ここでうなずいて、来月には遠くへ移るかもしれない。彼女を、ここでずっと待たせてしまうことになる。それだけは避けたくて、俺は「少しだけ、時間をもらえないかな」と口にするのが精一杯でした。
帰り道で考えていたこと
保留にしたあとも、俺は帰り道を変えませんでした。改札の柱の前で、いつものように彼女を待ちます。彼女が自販機の前で温かい缶に手を伸ばせば、俺は黙ってもう一本のボタンを押しました。角のパン屋の前で彼女の足が止まることも、俺の体にしみついています。
突き放したかったわけではありません。このありふれた道を手放せるかどうか、俺はその道で自分に問い続けていました。答えは、歩くほどにはっきりしていきました。