
妹の恋人に厳しく聞きすぎた俺が、玄関で言えなかった一言
妹ににらまれているのは、席の空気で分かっていました。それでも俺が質問をやめなかった理由と、帰り際になっても言えないままだった短い言葉の話です。
口に出してから気付いた言い方
妹が恋人を連れてくると聞いた日から、俺はどう振る舞えばいいのか決めかねていました。仕事を終えて実家に戻ると、居間から聞き慣れない笑い声がしていました。遅れて席に着いた俺に、彼は立ち上がって名乗り、美容師だと言いました。俺が最初に返したのは「美容師って、この先も食っていけんの」でした。口に出してから、言い方を間違えたとは思いました。それでも、愛想笑いで流される前に、彼の答えを確かめたい気持ちの方が勝ちました。
妹を泣かせた男を覚えている
妹が学生の頃、調子のいい話ばかりする恋人に振り回されて、玄関先で長いこと泣いていたことがありました。あの時、部屋から出て声をかけられなかったことを、俺は今でも覚えています。それ以来、夢を語る男の中身は、数字で確かめると決めていました。「その時計、自分で買ったの」。家賃の相場や貯金の額まで聞くのは、値踏みだと思われると分かっていました。それでも彼は目をそらさず、「3年後までに独立の資金を貯めます。届かなければ、計画を立て直すだけです」と答えました。お茶を替えに立った俺を、妹が台所まで追ってきました。「さっきから彼に失礼だよ」。俺は「事実を聞いてるだけだろ」と返して、急須を持ったまま先に居間へ戻りました。心配だからだ、という続きは、口の中で消えました。