
一緒に傘に入って帰りたかっただけなのに、俺はまた、いちばんそっけない言い方を選んでしまう
相合傘で、肩がぶつかるくらいの近さで一緒に帰りたいだけでした。それを素直に伝える言葉が、俺にはいつまでも見つからないのです。送るつもりだった言葉を全部消して、俺は妻に、短い一言だけを送りました。
呼び出すのは、口で言うほどの用じゃない
仕事帰りに駅へ着くと、傘を持たない俺には厳しい降り方でした。雨脚を眺めていたら、付き合いはじめた頃の夏が、ふいによみがえってきました。一人用の折り畳み傘に肩を寄せ合って入り、腕を濡らしながら笑った帰り道。妻に来てもらえば、もう一度二人で一本に入って帰れる。 そう思いついて、俺は「駅まで来られる?」とだけ送りました。理由は書きませんでした。家にいる妻をわざわざ雨の中に呼び出すのに、圧をかけるような言い方になってしまうのが、俺という人間です。
本当は、一緒に帰ろうと打ちたかった
案の定、妻からは「傘、持っていこうか?」と気遣う返事が来ました。入力欄には、二人で一本に入って一緒に帰りたい、と打ち込んでいました。けれどそう続けようとして、こそばゆくなったのです。こんな文面を送って、重いと思われたらどうする。二本持ってきてくれと頼めば濡れずに済むのに、その一言はわざと書きませんでした。残したのは、「傘は一本でいい」という、たった一言だけ。送った直後から、これでは何も伝わらないと分かっていました。