
あのメッセージを打ったのは俺じゃない。それでも、置きっぱなしの決まりを作ったのは俺です
会計を締めようとして手を伸ばした先に、俺のスマホはありませんでした。打ったのは俺ではない。それを伝えても、恋人の問いは終わりませんでした。あの1通より前に何があったのかは、今も半分だけ伏せたままです。
机の真ん中に置く決まりを言い出したのは俺でした
昔からの仲間内で月に1度集まっていて、日どりも店も俺が決めます。メニューの注文をお願いされるたびスマホを渡すのが面倒なので、机の真ん中に置いたままにする。そう言い出したのは俺です。誰かが写真を撮り、誰かが地図を開き、そのまま向こう側へ回っていくこともありました。その日も同じようにしていて、伝票を確かめようと顔を上げたときには、画面が別の手の中にありました。
「返して」の代わりに、俺は手のひらを出した
開いていたのは恋人とのやりとりでした。読み上げる声に合わせて、俺の名前で「彼氏くんのことは私に任せて」と打たれました。卓の端まで腕を伸ばすと、その人は体をひねって「横で本人も笑ってるから平気だよ」と続けました。その笑い声は周りのものです。返してくれと声を張れば、盛り上がりを止めたのは俺になる。そう考えている間に、送信は何度も繰り返されました。訂正するにはもう少し大きい声が要りましたが、俺が出したのは手のひらだけでした。