
「暇なのかな」と聞こえた交差点。旗を買った元トラック運転手の俺が、あの子に教えたこと
1人で帰ってきた女の子を呼び止めた日、向かいで待っていた母親が走って渡ってきました。毎日立っているのかと聞かれ、口から出たのは本当の答えではありませんでした。
ミラーの端に映った黄色いカバー
まだ4トントラックで配送を回っていた頃、あの交差点を曲がろうとしたときのことです。左のミラーの端に、黄色いものがちらりと映りました。電柱の陰から出てきた、1年生のランドセルのカバーでした。
思いっきりブレーキを踏み、運転席から飛び降りました。女の子は歩道の端で尻もちをついて泣いていましたが、けがはありませんでした。それからは、あの角を曲がるたびに速度を落としました。
今は倉庫で検品のパートをしています。仕事を終えると家には寄らず、子どもたちが帰ってくる頃の交差点へ向かいます。誰かに頼まれたわけではありません。
腕章のない旗振り
子どもが通らない間は、折りたたみ椅子に座って待ちます。宅配の車が停まれば、窓越しに運転手へ声をかけます。昔の同僚も多く、笑って話し込むこともありますが、最後は必ず「この角は子どもが出てくるから、ゆっくりな」と頼むのが決まりでした。
春休みで子どもの姿がない日も、足は交差点へ向きました。その日、母親と女の子が信号待ちで俺のすぐ横に並びました。女の子が「あのおじさん、だれ?」と聞き、母親が答えます。
「暇なのかな」
腹は立ちませんでした。腕章もない男が毎日立っていれば、そう見えるのも無理はありません。青になると、いつもどおり旗を横に出しました。気になったのは、女の子の背中の真新しいランドセルです。