
「そんなにお母さんの味にしたいなら、お母さんが作ってよ」と怒った私が、母のノートで見たもの
母の料理ノートには、最近書き足された日付が並んでいました。肉じゃが、煮魚、だし巻き卵。どれも私が実家で作った日です。何の日付かと聞いた私に、母は鍋を混ぜたまま答えました。
私の料理が母の味に変わるまで
1人暮らしを始めて半年、月に1度ほど実家へ帰り、その日は私が夕食を作ることにしていました。1人でもちゃんと暮らしていることを、口で言うより見せたかったのだと思います。ところが台所に立つと、母は昔から使っている料理ノートを持って横に来ます。人参に包丁を入れれば切り方を直され、煮汁を作ればしょうゆの分量を家のやり方に合わせるよう言われました。私が味見をして決めた味にも、母はノートを見ながら調味料を足していきます。食卓に並ぶころには、私が作り始めたはずのものが母の味に近づいていました。
「そんなにお母さんの味にしたいなら、お母さんが作ってよ」
3回目に夕食を作った日は肉じゃがでした。人参を切っていると、また横から「その切り方だと、火が通りにくいよ」と言われます。私は包丁を置きました。「そんなにお母さんの味にしたいなら、お母さんが作ってよ」。母は少し黙ってから、「私が作ったら、あなたが覚えられないでしょう」と答えました。私は毎日、自分の部屋で料理をしています。それでも母から見れば、まだ何も覚えていない娘なのだと受け取りました。次に帰るときは、作ると言うのをやめようと決めました。