
「そろそろ行くね」と早く帰る友人を、マンションの下のベンチで見つけた話
保冷バッグを届けに下りると、友人はまだ帰っていませんでした。ベンチに座るその背中を見て、私はそのまま引き返しました。歓迎されていないのは私のほうだと思いました。
いつも1杯で終わる時間
学生のころからの友人を部屋に呼ぶようになったのは、私がこのマンションへ移ってからです。プリンやアイスを保冷バッグに入れて持ってきてくれるのに、彼女はいつも短い時間で腰を上げます。呼ぶ回数を重ねても、そこは変わりませんでした。好きそうなお菓子を皿に出しましたが、湯のみが空になると決まってこう言うのです。
「そろそろ行くね」
私が「もう1杯だけ淹れるよ」と引き止めても、返ってくる言葉は毎回同じでした。
「ううん、大丈夫。今日もありがとう」
玄関のドアが閉まったあと、私は皿を片づけながら、うちに呼ぶのはもうやめようかと考えていました。
ベンチに座っていた背中
その日も友人は同じように帰り、テーブルの下に保冷バッグが残っていました。届ければまだ間に合うと思って、私はそれを持ってエレベーターに乗りました。
エントランスを出ると、植え込みの脇のベンチに友人が座っていました。手には自販機の缶があります。急いで帰る用事があったわけではないのだと、その背中を見て分かりました。
保冷バッグを抱えたまま、私はエレベーターの前まで戻りました。届けなかった理由を、自分でもうまく説明できませんでした。