
「どうして私の駅ばかり選ぶの?」彼女に聞かれて正直に答えた俺が、奪っていたものの正体
内見の帰り、カフェのテーブル越しに彼女が尋ねてきました。「どうして自分の職場が遠いのに、私の最寄り駅ばかり選んでくれるの?」
賃料の差を埋める、ひとつの計算
彼女との同棲の話は、付き合って三年経った節目に決まったことでした。物件探しを始めて最初に俺が考えたのは、月々の家賃をどう分けるかでした。
俺の職場は彼女の職場の最寄り駅とは反対方向で、通勤に電車で四十分以上かかります。一方の彼女は俺より少し収入が上で、しかも会社の家賃補助が、職場から一定の距離内に住むと支給額が増える仕組みになっていました。彼女から制度の話を聞いたとき、俺の頭の中では、これに乗らない手はないという結論が出ていました。
彼女の職場の最寄り駅に住めば、補助は最大化される。家賃の負担は彼女が多めに出してくれることになり、俺の通勤時間が延びるぶんを差し引いても、収支としては悪くない。そう判断して、俺は彼女の職場の最寄り駅の物件ばかりを候補に挙げていきました。
テーブルの向こうで、コーヒーが冷めた
内見の帰り道、駅前のカフェに入った彼女が、テーブル越しに聞いてきました。
「どうして自分の職場が遠いのに、私の最寄り駅ばかり選んでくれるの?」
俺はコーヒーを一口飲んで、自分の組み立てを正直に答えました。
「お前の会社、職場の近くに住むと家賃補助が上がるんだろ。俺の通勤は気にしなくていいから、お前の補助で多めに出してもらえれば、こっちの負担も減るし」
言い終わってから、彼女が一度もカップに口をつけていないことに気づきました。何かまずいことを言ったらしいとは思いましたが、何がどうまずいのかは、その時点ではまだ分かりませんでした。