
「ちゃんと書けなくて、ごめん」。彼が私にくれた送別カードが下書きのままだった
みんなが転職をする私の見送りをしてくれる中、いちばん後ろで、彼は最後まで黙ったままでした。花束を抱えて職場を出るとき、私がいちばんほしかった一言は、もらえないままでした。
差し出されたのは、消し跡だらけの一枚
封筒の中には、二つ折りのカードが一枚だけ入っていました。開くと、書いては消した跡が幾筋も走っていて、文字より線のほうが多いくらいです。最後の行は「また、」で途切れ、その先は白いまま。彼は私と目を合わせないまま、「ちゃんと書けなくて、ごめん」とだけ言いました。仕事のメモはいつも丁寧に書く人です。その人が、私あての一枚はここで投げたのだと受け取りました。
送り出される輪の、外側で
そのあとの見送りでは、先輩たちが順番に声をかけてくれて、花束まで用意してくれていました。彼は輪の少し後ろで、こちらを見たり、手元のスマホに目を落としたりを繰り返しています。本当はこの人にだけ、まともな一言がほしかったのだと、花束を抱えながら自分の気持ちに気づきました。けれど下書きの一枚を思い出すと、それを口にする気にはなれません。エレベーターの扉が閉まる間際まで、彼は何も言いませんでした。