
大好きな映画のチケットを彼が『一枚だけ』。私を置いていくつもりなんだと思った話
私の一番好きなものを、彼は一人で楽しもうとしている。そう思えてなりませんでした。けれど彼が口にしたのは、謝罪と、それ以上は聞かないでという短い願いだけだったのです。
映り込んだ一枚のチケット
彼の部屋でくつろいでいたとき、テーブルのスマホがふっと明るくなりました。画面に出ていたのは、私がずっと公開を待っていた映画の、チケット購入完了の通知です。学生の頃から大好きで、彼にも何度も語ってきた作品でした。やっと一緒に観られると、心のどこかで当たり前のように思っていたのです。ところがそこに表示されていた枚数は、二枚ではなく一枚でした。何かの間違いかもしれない。そう思おうとしても、その表示が頭から離れませんでした。
『一枚だけ』という答え
平静を装って、私は彼に尋ねました。「ずっと楽しみにしてたあの映画、チケットもう取ったの?」。彼は少し間を置いてから、「うん、取った。一枚だけ」と答えました。一枚だけ。やっぱり、と思いながら、私は重ねて尋ねました。「一枚だけ?私の分は?」。けれど彼はこちらを見ようとせず、「ごめん。今は聞かないでほしい」とだけ言いました。聞かないでほしい、とはどういうことだろう。私は彼の横顔を見つめたまま、次の言葉を探していました。一緒に行こうとも、別々に行こうとも言わない。ただ、私の一番好きなものから、そっと締め出されたような心地がしたのです。