
「行かないでほしい」と言えないまま見送った俺→彼女が本に残した言葉で、月に1度の予定ができました
本を鞄に入れて持ち帰り、部屋で表紙をめくりました。本に挟まれた紙に残っていた彼女の字は、見送りの場では口にされないままだった頼みごとでした。
相談ではなく報告でした
付き合って3年、彼女とは同じ町で働いていました。休みの日は俺の部屋にいることが多く、帰るときは外まで出て見送るのが癖になっていました。その部屋で「来月から、向こうの店に移ることになった」と言われたとき、俺は「そっか。決まったんだ」と返しました。頭の中では「行かないでほしい」を何度も並べていました。それでも、決まった仕事に口を挟む男だと思われたくありません。カップを流しへ運びながら、自分の口の重さに腹が立ちました。
箱に入らなかった本
荷造りの日、俺は彼女の本を箱に詰めていました。途中で彼女が手を伸ばし、1冊だけ抜き取ります。3年前に俺が貸したまま、彼女の棚に仕舞われていた本でした。「この本、返すよ」と言われて、俺は「持っていけば」と返しました。彼女はテープで箱の口を留め、その話はそこで終わってしまいました。要らないという意味だろうと思い、俺はその本を鞄に入れて持ち帰りました。