
満員電車でスカートに靴跡、「そんなに当たってない」の直後に届いた声
2度目に声をかける言葉を探していた私の頭の上から、低い声が聞こえてきました。次の駅で席を立ったのは、その声の主ではありません。
裾についた黒い跡
満員電車で立っていたときのことです。目の前の座席では、スーツ姿の男性が深く腰かけ、足を組んでいました。革靴の先が通路側に突き出し、電車が揺れるたび、私のスカートをかすめていきます。よけようにも、後ろは人の壁でした。裾を持ち上げて確かめると、靴底の形をした汚れがはっきり残っています。相手はスマホの画面から顔を上げようともしませんでした。
「そんなに当たってないでしょ」
迷った末に、私は腰をかがめて声をかけました。「すみません、靴が当たっていて」。男性はちらりと裾を見て、「そんなに当たってないでしょ」とだけ言い、また画面に目を戻しました。周囲の乗客は、こちらへ視線を向けないままでした。汚れたのはこちらなのに、まるで私が大げさに騒いだような空気でした。2度目の言葉を探しているうちに、電車がまた大きく揺れ、靴の先がもう一度、裾に触れました。