
彼の新しい財布に入っていたのは、私の写真ではなく一枚の古いレシートだった
「うまく言えないんだけど、捨てられないんだ」。古いレシートをそう言って財布に戻した彼。私の写真より大切にされているその一枚の意味が、どうしてもわかりませんでした。
移されなかった一枚の写真
以前、二人で撮った写真をプリントして、冗談半分で「財布に入れてよ」と渡したことがあります。彼は照れながら、財布のカード入れにそっとしまってくれました。それからその写真は、彼の財布の定位置になっていたはずでした。けれど、新しい財布に移されていく中身の中に、あの写真の姿はありません。代わりに彼が大事そうに差し込んだのは、折り目だらけの、色あせた一枚のレシートでした。
写真より大事だという、その言葉
思わず、軽い口調を装って聞いてみました。「あの写真は、入れないの?」。彼は手を止めずに、こともなげに答えます。「写真はいいよ。それより大事なものが入ってるから」。その「大事なもの」が、さっき差し込んだレシートを指していることは、すぐにわかりました。私の写真より、いつのものかもわからない紙切れのほうが大事だという意味に聞こえて、言いようのない寂しさが広がっていきます。