
ネイルサロンは不思議な空間。
◇恋の始まりはどこだ
「仲良くなりたいような、なりたくないような、なんかモヤモヤするんです~」
エナさんがモヤモヤをそのまま吐き出した。
「どうしようかな、どうしたらいいですかね?」
今日、指先に塗る色も決めずに悩み出すエナさんの恋は、まだ始まったばかりだ。
好きになるときって案外簡単で、些細な仕草や言葉にきゅんときたら、すぐに恋は始まってしまう。
でも、恋の始まりはいいところしか見えないわけで、そこから先に進もうと思ったら嫌なところも見なきゃいけないし、がっかりするような出来事にだって遭遇したりするのだ。恋をいくつか経験したからこその怖さや不安。大人になるほどに恋に憶病になってしまうのも仕方がないことのような気がする。
このまま好きでいたいし、このままドキドキしていたい。だからこそ、嫌な部分はある見たくない。彼のことをそんなに知らなくていい、ていう気持ちになるのもわからなくもない。
「すっごい短気とかだったらどうしよう….」真剣に悩むエナさんに「それは嫌ですねぇ….」真剣に相槌をうつ。
「やっぱり、もう近づきすぎるのやめようかな」というエナさんのその気持ちもわからなくもない。
◇「人を知る」ということ
知りすぎることはやっぱり怖くて、それは恋人だけに限った感情ではないかもしれない。友人も上司もご近所の方も、仲良くなった瞬間はすごく好きになるのに、知らなかった部分が少しづつ見えてきたときの小さな「ん?」が気になって、いつの間にか疎遠になってしまうことだってあるのだから。
だとしたら、それが彼に限ったことじゃないのだとしたら、必要以上に怖がらなくてもいいんじゃないかしら。
知らずに終わるほうが幸せなこともあるかもしれないけれど。
「エナさん、その彼に彼女ができても”仕方ないな”て思えそうですか?」
少し意地悪な質問をしてみた。
「えー!嫌です。泣きそう。」
本当に泣きそうな顔のエナさんが本当に嫌そうに言うから、少し笑ってしまった。
「だったら、覚悟決めて進むしかないです!始めないと始まらないから」
チャンスの神様に後ろ髪はないなんて言うように、、恋愛の神様にだって後ろ髪はない。
恋はどうしても”出会う順番”があって、先に出会っただけでも有利なんだけれど、行動しないでいる間にも人はどんどんいろんな人に出会ってしまう。
知るのが怖いと悩んでいる間に、覚悟を決めて彼を知ろうとする人が現れるかもしれない。
「もっといい人がいるかもしれない」と考える期間が長ければ長いほど、彼と過ごすはずの時間は減っていくわけだから。
恋は、始めないと始まらないのだ。
「今、こうしてネイル塗っている間にも、彼はいろんな人と出会ってるかもですよ~」
思わずにやりとした顔で言ってしまうけれど、これもまた現実。
「やめてください(笑)焦るじゃないですか!LINEしてみようかな」
「しちゃってください!左手だけネイルすすめておくので」
エナさんの右手がスマホをタップする。
◇おわりに
恋愛が始まるとき「彼でいいのか?」を考える時間は必要なのだけれど、そう考えている今がある時点ですでにスタート地点に立っているわけで、スタートの位置で前を見据えたら、結局は顔を上げて進むしかないのかもしれない。(川上あいこ/ライター)
【あの子のレンアイ事情】